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2020.07.29

【社会学研究者:中村香住/レロ】2つの顔を持つからこそ気付くことがある

会社の打ち合わせ室で本日インタビューさせていただく社会学研究者の中村香住さんを待つ我々。今までコスプレイヤーやボカロPなど、こう言ったら申し訳ないが多少なりともライトな雰囲気の人たちばかりとお話してきたため、今回の肩書はなんとなくお固い。専門用語とか連発されちゃったらどうしよう・・・などという不安が脳裏をよぎる。

 

ガチャ・・・とドアが開いた。

 

い、いいい、いらっしゃいませ!!と、たどたどしくお迎えしようとしたところ・・・

 

社内にメイドさんが一人いるだけで、ここまで雰囲気が変わるのか・・・と驚き。

 

 

 

「お帰りなさいませ」

 

え??そこにはメイドさんがいた。会社で社会学研究者の先生をお迎えしたはずなのに、なぜか逆にお迎えされた。

 

 

メイドさんという働き方に寄り添う考え方

 

メイドさんの力というものはすごい。無機質な社内にメイドさんが1人いるだけで癒やしの空間に早変わりだ。お紅茶でもいただこうかしら・・・とか言いたくなるが、さすがに自重する。だって、今回はメイドさんがお客様ですもの。

 

そう、社会学研究者として慶應義塾大学大学院で研究や論文執筆に勤しむ中村香住さんは、レロさんという名でメイドさんとしても活躍中なのである。以下、呼称はレロさんで統一!!さてさて、社会学の研究とメイドさん・・・全く結びつかないような気がするが、一体なぜ?という当たり前の疑問点から聞いていこう。

 

「確かに一般的に社会学とメイドって言われてもピンとこないですよね。でも、とっても深い関わりがあるんですよ」

 

と話し始めたレロさん。そもそも社会学ってなんぞや・・・?

 

「社会学というのは、広く社会の現実や仕組みについて、理論的に理解して説明しようとする学問です。その中で私は、ジェンダーやセクシュアリティ、つまり性に関する分野を専門にしています」

 

なるほど、噛み砕けば同人活動の成り立ちとかを研究することも社会学に当てはまったりはまらなかったり・・・というわけか。たぶん。しかし、なんでまた社会学を研究しながらメイドなんだろう。

 

「もともと社会学に興味はありましたが、とくに自分が関心があることについてきちんと考えたいと思った時に、これは社会学という枠組みから研究するのが一番よいかなと。もともと私、小さい頃からいろいろなジャンルのオタクでして(笑)。大学に入ってからはアイドルオタクになり、それから女性の声優さんにハマったり、二次元アイドルも好きですし、極めつけはメイドカフェ。2年間で500回くらい通っていた時期もあったんですよ」

 

ちょっ・・・1年って365日しかないんですよ!?2年で730日ですよ!?それで500回とは驚きです。

 

「メイドカフェもそうですが、女性アイドルとか、女性性を売りにする側面があるコンテンツに従事するって、女性の働き方としてどうなの?「性の商品化」であり良くないんじゃないの?って意見が必ず出ます。そうした産業がジェンダー規範の再生産・再強化につながるとする批判もあります。その批判には頷ける部分もありますし、きちんと考え続けねばならない点です。ただ、そこからひとっ飛びに、女性性をコンテンツの一環として提示する産業で働くこと自体を全否定してしまったら、そこで今実際に働いている女性はどうすればいいんだろうと思ったんです」

 

さすが社会学研究者のレロさん。いつの間にか始まった社会学の講義に引き込まれてしまう。

 

「メイドカフェに通い続けているなかで、ハッとさせられたことがありまして。私に、『フェミニズムの言っていることが自分を救ってくれると思えない』と言ってきたメイドさんがいたんです。メイドさんたちも当然一人の女性ですし、先ほど述べたように女性性を提示しながら仕事をしているわけですから、むしろジェンダーにまつわる悩みや苦しみに直面することも多いはずなんです。しかし、少なくともそのメイドさんが見てきたフェミニズムの言説は、自分を救ってくれるように思えなかったと。それで、これはちょっとちゃんと考えないといけないと思いました。まずメイドさんたちが実際にどのような労働経験をしていて、その中でどんな喜びや困難があるのかをきちんと聞き、それとジェンダーがどのように関係しているのかを分析することで、彼女たちとともに立てるフェミニズムを構想したいと思うようになりました」

 

ほおおおおぉぉぉ・・・勉強になる。これ間違いなくテストに出るわ!!とか思いながら、ノートに講義の内容をメモし続ける。が、落ち着け落ち着け。これはインタビューだ。

 

いつの間にか社会学の講義に引き込まれてしまった。

 

メイドカフェに通いまくってたらメイドになってた

 

レロさんが社会学的観点からメイドカフェで働く女性たちを研究しているのは納得。しかし、なんでまた自身もメイドに・・・?

 

「メイドカフェに通い続けていると、やっぱり顔を覚えてもらえるし、表面だけの会話じゃなくて一歩踏み込んだお話もできるようになるんですね。メイドとして働くことに対する喜びだったり大変さだったり。それから、研究の一環でたくさんのメイドさんにインタビューもさせてもらいました。そんな中で、『メイドカフェでノマド会』という会を知ったんです。メイドカフェでのノマドワークの推進を目的とした会で、実際にメイドさんのいる場所でノマドワークをするイベントも行っています。具体的には、メイドカフェを貸し切ったり、レンタルスペースを借りたりして、メイドさんのいるノマド会を開催しています。私はそこに登録させてもらって、月数回程度ですが研究のためメイドとして働かせてもらってます。実はメイドカフェって、ノマドワークにとても適しているんですよ。紅茶やコーヒーはメイドさんが注いでくれますし、作業が進まない時はメイドさんとお話して気分転換できますしね」

 

おぉ、そんな会があったとは・・・いつかこのインタビュー記事もメイドカフェで書いてみたい!!

 

「メイドさんにインタビューをしてきて、お仕事の内容とかは知っていたつもりだったんですが、やっぱり実際に働いてみるとやっぱり大変です。主にウェイトレスのお仕事ではありますが、コミュニケーションこそメイドカフェの醍醐味ですから。今話しかけて良いのかな?とか、どんなこと聞けば良いのかな?とか、ご主人様・お嬢様一人ひとりに合わせて会話が大切ですよね」

 

レロさんの働く『メイドカフェでノマド会』、気になる人はぜひ覗いてみてはいかがだろうか。

 

 

●メイドカフェでノマド会

 

https://maid-cafe-nomad.connpass.com

 

 

レロさんの研究の成果をご紹介

レロさんの主な活動というかお仕事は社会学研究のため、論文執筆が主、ではあるのだが連名で本も出版されている。

 

「メイドさんの働き方やフェミニズムに関する問題、論文発表だけだとどうしても広く知ってもらえないじゃないですか。だからこうして本に書いたりもしています。あとはWebメディアに投稿させてもらったりですね。今は『ガールズ・メディア・スタディーズ』という本の中に一章分寄稿しようとしているところですね。宣伝みたいになっちゃいますが、現代メディア文化と女性たちの関係について考えるうえでの教科書となるような本です。例えば・・・多くのメイドさんたちがやっているSNS。お店のアカウントに自分のプライペートな時間を使って投稿したりしてますよね。営業時間外だけど労働の一貫。でも、賃金は発生しない。そんな無賃労働としてのSNS上で、自分のメイドとしてのパーソナリティを提示し続けなければいけないという大変さがあります。こうした問題について切り込んでいる本なので、刊行されたら良かったら読んでみてくださいね」

 

ガールズ・メディア・スタディーズ(北樹出版)

 

発行日:2020年11月10日(予定)

 

今まで携わってきた本を持ってきていただいた。

 

「他に私の活動といえば・・・メイドカフェと言えば秋葉原ですよね。そんな秋葉原のNPO法人『秋葉原で社会貢献を行う市民の会 リコリタ』の運営にも携わっています。簡単に言うと、秋葉原で楽しみながら社会貢献をしようということで、メイドさんや秋葉原のさまざまな店舗のみなさんにも協力していただきながら活動をしています。例えば毎年、秋葉原のいろいろな店舗のメイドさんたちに集まってもらって打ち水をしたり。最近だと、千代田区が主催する放置自転車クリーンキャンペーンにメイドさんと一緒に参加したり、東京都が主催したパラスポーツイベントの中でメイド店や秋葉原の店舗同士のボッチャ対決を行ったりもしました。みんなが愛する秋葉原のためになったり、メイドさん同士のコミュニケーションに役立ったり、でもメイドさんと一緒にいろんなことに貢献できるので自分も嬉しい。利己的なことと利他的なことを一緒にやろうということで『リコリタ』なんですよ」

 

とても素敵なネーミングセンスと活動内容!!いずれこのDoujinWorldもご協力させていただけるよう精進します!!

 

 

●秋葉原で社会貢献を行う市民の会 リコリタ

 

2004年から行われている大好評のイベント「うち水っ娘大集合!」だが、今年は新型コロナウイルスの影響により、一箇所に集まらず協力メイドカフェ各店の開店時に軒先で実施されるそう。その名も「開店打ち水、はじめました」月間!アキバを愛する者たちでイベントを応援し、過ごしやすい秋葉原を作ろう。

 

日程:2020年8月1日~8月31日

 

※詳しくは下記のリコリタwebサイトへ

 

https://licolita.org

 

 

メイドカフェへの偏見を持たず、ますは体験してほしい

 

日本のオタク文化が世界へどんどん発信され、秋葉原を堪能する海外からの観光客も多い今、レロさんの「メイドカフェで働くメイドさんの研究」も海を超えグローバルなものとなるだろう。

 

「海外の方はもちろんですが、日本の方にもですが・・・メイドカフェって言ってもお店のカラーはそれぞれ全く違うんです。いわゆる『萌え萌えきゅん』を楽しむところもありますし、落ち着いたクラシカルな雰囲気のメイドカフェもあります。イメージだけで判断せず、まずは体験してもらって、自分に合ったメイドカフェを見つけてくれると嬉しいですね。きっと第二の我が家になるはずですよ」

 

我々の疲れを癒やし、美味しいドリンクや食事を提供してくれるメイドさんに感謝を!!

 

ただの顧客に「お帰りなさいませ」と迎え入れてくれるメイドカフェ。その「当たり前」だが「当たり前ではない」サービスのありがたさを、今一度噛み締めようと思う。

 

Twitter:@rero70

 

 




Writer

佐藤志郎

2010年に広告制作会社を立ち上げる。主要な取引先は通信販売会社であるため、得意分野はダイレクトレスポンス広告。


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