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2020.09.25

「併せ」で出会うキラキラしたものの話

 

「併せ」とは、共通項(※)を持った複数人のコスプレイヤーが一緒にコスプレすること。

 

 

もし筆者が10秒で説明するように言われたら、こんな簡素な一文に落ち着いてしまう。だけど、これじゃあ全然伝わらないんだ。併せの深みも面白さも。

 

 

なぜ数多のコスプレイヤーがわざわざ予定を合わせて衣装を用意して場所代を払ってまで一堂に会するのか?筆者の場合は、併せをしている瞬間でしか出会えないキラキラしたものに魅せられているからだ。その正体は楽しさ、興味深さ、今風に言えば尊みやエモさ…正直、言葉では言い表しきれない。

 

今回は、筆者の記憶から取り出したキラキラの幾つかを見てもらう機会にさせていただこう。これまで100回近く併せをしてきたけれど、ここで語ることは只のいちコスプレイヤーの独り言だと思って聞いてほしい。

 

 

※共通項…同じ作品やシリーズに登場するキャラクターや、同一のコンセプト(外見の特徴など)に沿ったキャラクターであること。

 

 

この瞬間、君と創る同人作品

筆者はイラストや漫画が描けないし、物語と呼べるような文章を書いたこともない。コスプレは、そんな自分でも大好きな作品の世界を表現できる手段だと思っている。しかも併せは、コスプレをする仲間と一緒に世界を創っていける。これは、一人で描く(書く)同人作品とは違ったアプローチができる方法なんじゃないだろうか。

 

 

同じ作品に登場するキャラに扮したレイヤー同士で、こんな表情やポーズをとったらあの2人らしいよねとか、撮影スタジオのこのブースならあの場面が再現できるねとか話しながら、キャラ同士のつながりを紐解いていく。ひとりじゃ紡げない物語が生まれる。その瞬間は、スマホの自撮りフォルダに収まったり、カメラマンの手により雰囲気まで完成された一枚の写真として形になっていく。いや、データに残らずとも、イベント会場で共に過ごした時間を思い出すだけでも、まるで併せ相手と一緒に描いた同人誌を読み返しているような心地を覚えたりするものだ。

 

 

創作物(もの)からの刺激、レイヤー(ひと)からの刺激

衣装や小道具の作り方、ウィッグの切り方、メイクの方法はまさに十人十色。だからこれまで、筆者が人様のコスプレから感銘を受けることは数えきれないほどあった。自作衣装で集う併せは身に纏うものの至る所に作り手のこだわりが表れているものだから、撮影の合間はついしげしげと眺めてしまう。推しへの愛を形にしました展覧会に来た気分。

 

 

また併せをしていると、コスプレにはレイヤー自身の人柄や作品への想いが表れていることがよくわかる。筆者はつい併せ相手の人間観察をしてしまうのだが、構図について話し合う時の言葉の端々や撮影時の表情の機微からその人らしさや作品との向き合い方を垣間見ることがある。コスプレにレイヤー自身の持ち味が加えられていく現場に立ち会っていると、Twitterで完成写真を見るのとは比べ物にならない程圧倒されてしまい、自分らしいコスプレがしたい気持ちに駆り立てられる。

 

 

併せは出会いを連れてくる

 

コスプレという趣味を続けていると、だんだん初対面の人と話すことに慣れてくる。それほどに、併せには初めましてがつきものだと実感している。筆者はコミケ会場で突然ある作品のコスプレイヤーが集まる機会に出くわしたことがある。ゲリラ併せというやつだ。日本中、世界中からやってきた同志が次々と輪に加わって、挨拶したり自撮りをしたり、Twitterでフォローし合ったり。自分以外にも作品愛を全身で表す人がこんなに沢山いたんだという安心感と、この出会いがどんな出来事を連れてくるのかわくわくする気持ちはこの場でこそ味わえるものだと思う。

 

しかもコスプレを通じてできる友達は年齢も立場も本当に様々で、学校や職場では絶対知り合えないような人たちばかり。仲間たちとの交流の中で多様な価値観に触れられる瞬間もかけがえのないものだと日々感じている。

 

 

ここまで書き連ねた文章を振り返ってみたが、少々大仰なことを並べ立ててしまったかもしれない。オタク友達と好きなキャラの格好になってただお喋りするだけで満足という人も、一人でコスプレするのが不安だから併せをするという人もいるだろう。併せをしたいと思う理由はレイヤーそれぞれみんな違ってみんないい。

 

コスプレは、はたから見たらいい大人達のごっこ遊びに見えるかもしれない。でも筆者はお金も時間も使って本気で打ち込めるごっこ遊びが面白くないわけがないと思うし、同じ熱を持った仲間同士なら更に楽しみが広がる最高の趣味だと思う。

 

自粛ムードの中で併せがしづらい今日だけれど、また同志とキラキラしたものを追いかけることができる日を希望をもって待っていたい。

 

 




Writer

KAMOMI

管理栄養士にしてコスプレイヤーの新人ライター。得意分野はコスプレを主とするオタク文化、食物・栄養関連。


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