2022.09.10
【作曲家:水谷晨(ボカロP:しんぱす)】神から追放されし男の音
合唱を嗜むお父様とピアニストであるお母様のもとに生まれたという水谷さん。幼少期はクラシックを聴きながら育ったと話す。
なんとなーーく高尚な雰囲気を醸し出す音楽には疎い我々・・・というかペンライトを振り回すことしかできないし。なので「おぉ・・・音楽界のサラブレッド!?」という印象を当然のように持ったのだが、実はパンクなぶっとい反骨精神を秘めた男だった。その理由をぜひ紹介したい。
いたって普通の家庭に音楽があっただけ
「母がピアニストだからって、ピアノを習っていたわけではないんですよ。自分の子供に音楽を押し付けないという教育方針だったんで。ただ、身近に音楽があったことは間違いないんで、自然にその道に進んでました」
と話し始めた水谷さん。高校までは管楽器を演奏していたという。
「オーケストラでファゴットという楽器をやっていたんです。ただ、自分は緊張しやすいタイプで、なんとなく合わないなって感じていたんですよね。なので、ジャズピアニストになろう!って思い、アメリカに留学しました」
え・・・?言葉も文化も違う国に、そんな簡単に「よし、おれジャズるわw」みたいな感じで行っちゃう・・・?
「ジャズって即興の要素が強いじゃないですか。だから、緊張して間違えたとしても大丈夫かなって(笑)。それが19歳の時でしたね」
大丈夫・・・じゃないだろう。そもそも、ピアノを習ったこともなくファゴット吹いてたのになんで・・・?
「実は、レッド・ガーランドってピアニストに影響を受けたんです。その人も19歳でピアノを始めたそうで。もともとはボクサーだったんですよ!だから自分でもイケる!って思ったんです」
うんうん、まっっっったく共感できない。思考回路が数オクターブ飛んでる。
「英語も全然できなかったんですけどね、音で通じ合えればいいんです」
オランダに渡り神との邂逅
アメリカ留学を経て、新天地として水谷さんが選んだのがオランダだ。
「ロッテルダム音楽院を卒業して、ハーグ王立音楽院で学んでる時でした。リチャードって先生と揉めに揉めましてね・・・」
聞けばその方、電子音楽、アカデミックな世界では神のような存在なのだという。
「お互い頑固だったというのもあるんですけどね、自分は自分の音楽を主張して、リチャード先生も全然譲ってくれないものですから・・・結局、ハーグを追い出されちゃったんですよ。音楽性の違いってことですかね(笑)」
笑いごとじゃねぇえ!!ハーグ王立音楽院って、ものすごい歴史があってものすごい著名な方々を輩出されてる名門じゃん!?
「たまたまその頃に、東京藝術大学からビッグバンドの曲を書いてって依頼があったんです。それで日本に帰ってきました」
VOCALOIDとの出会い・・・ボカロP『しんぱす』の誕生
どれほど凝縮された音楽人生を送っているんだろう・・・The凡人の我々には想像もつかん。
「その時に書いたのが『ヨコスカ心中』という曲です。初めてビッグバンドで演るジャズを書いたんですけど、大変ですね。譜面が新聞紙のように積み上がっていくんです」
●水谷さん初のジャズを初音ミクさんが歌っている動画は下記からチェックだ!!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm31107467
「もともとオタクだったのもあってVOCALOIDの存在は知っていたんですよ。でも、なんかしっくりこない気がしていたんです。でも、みきとPさんやOSTERさんを聴いているうちに、いいと思うようになりました」
水谷さんにとってVOCALOIDの魅力はどういったところなのだろうか。
「機械は人格がありませんから。曲の良さがダイレクトに伝わるという印象です。最初は調声の仕方がわからなくて苦労しましたが、知人に教えてもらって徐々に・・・。人間味がありすぎないように心がけています」
なるほど、人間ではなくVOCALOIDらしさがあるからこそ、いい意味で声に影響されず曲を届けられるというわけか。
「それにVOCALOIDはいろいろな声が用意されているのも魅力ですよね。一人一人、倍音の成分が違う。機械なので透明なんですけど、いろんな種類の透明があるというところは、本当に発明だなって感じました」
作曲家として目指す場所とは?
音楽と共に育ち、世界レベルの音楽機関で学んでいるのにも関わらず、自分の求める音のためにあえて用意された王道を歩かずに、我が道を切り開いてきた水谷さん。そのゴールはどこを見据えているのだろうか。
「まず自分の好きな音楽の話になっちゃうんですけど、60年後半~70年代の曲が好きなんです。例えば有名なのだと・・・ルパン三世のエンディングテーマとか」
あ~!!!納得!!!水谷さん・・・というか、あえてしんぱすさんと呼ぼう。しんぱすさんの投稿された曲を聞くと高度成長期の日本、華やかでレトロな時代風景が頭に思い浮かぶ。
「そうですそうです!バブルでお金があって、海外のいろんな音楽が日本に入ってきた時代です。そんな自分の好きな音楽のジャンルを生み出し続けているアーティストといえば、椎名林檎さんですね。武道館でコンサートをして椎名林檎さんと肩を並べる、超える!というのが目標です」
最後にお知らせだ!水谷さんが新曲を作り上げるためのクラウドファンディングを立ち上げたそうだ。なかなか平均給与が上がらないと言われている日本。失われた30年・・・そんな今だからこそ、景気の良い時代を彷彿とさせる楽曲に浸ろうではないか。応援は下記リンクから!
●水谷晨
Twitter:@smizutanicomp
webサイト:https://shinmizutani.site
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Writer
佐藤志郎
2010年に広告制作会社を立ち上げる。主要な取引先は通信販売会社であるため、得意分野はダイレクトレスポンス広告。