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2020.06.16

同人視点で見る鬼滅の刃

2020年5月、一つの大人気マンガが終幕を迎えた。

 

そう、「鬼滅の刃」だ。

 

連載期間4年という決して長いとは言えない年月の中で、この鬼滅の刃というマンガの名は老若男女に知れ渡り、幅広い世代の人間に愛されるモンスター作品へと成った。

 

今回はそんな鬼滅の刃の軌跡と、変遷を見てみようと思う。

 

鬼滅の刃とは

言われなくても知っているという読者も多いだろうが、まずは鬼滅の刃のあらすじをおさらいしよう。

 

舞台は大正時代、主人公の「竈門炭治郎」は炭焼きを仕事としながら、山奥で母や幼い兄弟たちと暮らしていた。しかし、ささやかながら幸せだった炭治郎の日常は突然失われてしまう。炭治郎が留守にした、たった一晩の内に「鬼」と呼ばれる存在によって家族が惨殺されてしまったのだ。

 

そんな惨劇の中にただ一人、一番上の妹「竈門禰豆子」だけがかろうじて生き残った。

なんとか命を救おうと禰豆子を連れ炭治郎は山を下るが、無情にも禰豆子は家族を惨殺した犯人と同じ存在、鬼へと変貌してしまう。

 

禰豆子の鬼化に成す術もない炭治郎に手を差し伸べたのは、特殊な部隊に所属する男「冨岡義勇」だった。そして彼の導きにより炭治郎は苛烈な修行を経て、鬼を倒すために作られた部隊「鬼殺隊」に入隊することになる。

 

禰豆子を人へ戻すため人でありながら鬼と戦うことを選んだ炭治郎と、鬼となりながらも人を襲わず炭治郎と共に戦う禰豆子。2人は鬼殺隊の任務を通して、多くの仲間や強敵と出会い、過酷な戦いの中へ飛び込んでいくこととなるのだった。

 

鬼滅の刃はシリアスで、グロテスクな内容を根幹としながらも、主人公の成長、家族愛、仲間との絆などをうまく描いた作品である。

内容に対して作品自体の雰囲気が暗くなっていないのは、主人公である炭治郎の性格によるところが大きい。

明るく素直、しかし逆境にも負けず立ち上がる強さを持ち合わせている、まさにジャンプの王道主人公。

王道と邪道をバランスよく兼ね備えた作品、それが鬼滅の刃なのだ。

 

 

鬼滅の刃が打ち立てた偉業

さてあらすじを確認したところで、今度は鬼滅の刃の軌跡について振り返ってみようと思う。

鬼滅の刃というコンテンツはいかにして、現在の状態まで上り詰めたのだろうか。

 

苦戦した連載開始当時

前述したが、あらすじだけを抜き出すと比較的ダークな内容であることが分かる鬼滅の刃。

連載元である週刊少年ジャンプにおいても、そのテーマは他の連載作品とは少々毛色の異なった雰囲気を醸し出している。

絵柄に関しても万人受けするものだと聞かれれば、そうではないだろう。

 

実は今でこそ大人気である鬼滅の刃も、2016年連載開始当時の人気は打ち切り寸前レベルの状態だったということはあまり知られていない。

筆者は連載開始当時週刊ジャンプを毎週購読しており、大型掲示板などでも読者のコメントをチェックしていた。

そのため今でも記憶しているが、「そろそろ鬼滅打ちきりじゃね?」「鬼滅ちょっとジャンプには合わないよな」なんて辛辣なコメントを目にしたことは1度や2度ではすまない。

 

そう、当時鬼滅の刃の読者投票の順位は毎度散々だったのだ。

もちろん読者投票の結果は公表されるものではない、しかしその結果がジャンプ紙面への掲載順位に反映されることは比較的有名な話。

 

鬼滅の刃は連載開始からたった3週で掲載順位が13番目まで落ち込むと、その後年間で40回あった掲載の内60%を超える25回もの掲載において10番目以下に甘んじることとなった。

これは十分に打ち切りに値する成績だと考察される。

 

土台作りの1年目、昇華する2年目

しかし低迷していた鬼滅の刃は2年目にして転機を迎える。

土台となる炭治郎のバックボーンをしっかりと築き上げ、メインとなる仲間も登場。

そうして初めて物語の軸を動かす大きな流れに突入したのだ。

 

満を持して行われた敵味方両陣営においてのキャラクターの大量投入。

味方陣営では位付けよりも個性の強調を強く、華やかさを重視、主人公の炭治郎から見て自分にない圧倒的な強さを持ち合わせた「柱」

反対に敵陣営では明確な順位付けをすることで、その脅威が読者や炭治郎により分かりやすく設定された「十二鬼月」

この展開によって、鬼滅の刃の話はグッと厚みを増した。

 

実は作者である吾峠呼世晴さんは鬼滅の刃がジャンプでの初連載作品。

1年目人気が出ず、打ち切り寸前という状況は、我々の想像を絶するほどのプレッシャーだっただろう。

しかし吾峠呼世晴さんはそこで信念を曲げず、鬼滅の刃という物語全体の根幹を支える基礎部分を地道に描き続けることを諦めなかった。

そして、2年目にして見事にストーリーを昇華させたのだ。

 

アニメ化を足掛かりに人気を爆発させた3年目

3年目となる2019年4月、連載は佳境に入りアニメ鬼滅の刃が放送を開始した。

人気作品を数多く手掛けるufotableが作成したアニメーションの完成度は高く、人気声優を惜しげもなく多用した作品は大ヒット。

アニメソングで多数ヒット曲を出し、実力も確かなLiSAが担当した主題歌「紅蓮華」もファンからは非常に人気が高く、この年紅蓮華で自身初となる紅白歌合戦出場を果たした。

こうして鬼滅の刃は爆発的に人気作品への階段を駆け上がったのだ。

 

書籍の大手通販サイトでは連日販売数ランキングの上位を独占し、アニメが終了する頃にはコミックスの累計販売部数は約1,200万部を突破。

アニメ開始直前での累計販売部数は約450万部、これでも現在の出版業界では十分に順調な販売数なのだ。

コミックス発売開始から緩やかに販売数を伸ばしてきた鬼滅の刃、しかしアニメの影響によってたった半年でその販売数を3倍に伸ばしてしまったのだった。

 

そして2020年6月現在、右肩上がりに増え続けた販売数は6000万部を突破した。

これは大人気マンガ「テニスの王子様」に匹敵する販売数、つまり1999年から連載をしていた老舗マンガにほんの4年の連載で追いついてしまったということなのだ。

 

多方面での展開を広げ、物語の終幕へと足を運んだ4年目

アニメ終了直後、すでに続編にあたる映画作成の決定が発表された。

映画化の発表のおかげもあり世間で盛り上がった熱は冷めることなく人々の心にとどまり続けた。

しかし誰もがこのまま熱狂が続くと思っていた矢先、鬼滅の刃の連載が終了。

 

インターネットの世界は阿鼻叫喚だった。

話の終結を感じ取ってはいてもこの世間の熱狂の中、本当に連載が終了すると確信していた人がどれだけいただろうか。

 

ふと筆者は「バクマン。」を思い出した。

大人気漫画を自分の思うがままに描き切り、躊躇なく連載を終了させた新妻エイジのようだ、と。

人気作品が長々と連載を引き延ばされる中、こんな潔い終わり方をする作品が一つくらいあってもいいのではないか。

 

そして物語は外側へ広がり続ける

前述したが、アニメ化だけでは収まらず2020年には映画の公開を控えた鬼滅の刃。

もちろんそれだけでは収まらずスピンオフ作品の開始、舞台化、ゲーム化、小説化とその幅を広げ続けている。

 

鬼滅の刃関連のグッズもアニメイトなどの専門店だけではなく、ドン・キホーテやTSUTAYAなど様々な販売店に販路を広げ、今では街を歩けばいたる所で鬼滅の刃関連商品が目に飛び込んでくる。

特にコンビニチェーン店で販売されているコラボは好評で、ローソンで行われたコラボ企画の商品は配布開始当日に全国の店舗から消え去ってしまい話題になった。

 

連載が終了したことで、その足並みはそろそろ緩やかに落ち着きを見せてくるのだろうか?

しかし、映画公開を控えた鬼滅の刃の勢いは未だ止まるつもりがなさそうである。

 

 

同人視点で見る鬼滅の刃

ではここで本題、同人的視点で鬼滅の刃について見てみよう。

 

方々に広がりを見せたコスプレの話

2019年C97冬コミでは、鬼滅の刃のコスプレに挑むレイヤーさんが数多く参加し、いたるところで合わせの撮影が行われていた。

有名レイヤーさんも多く参加しており、ここでも鬼滅の刃の人気ぶりがうかがい知れる。

 

また、ファビュラスなコスプレで世間を賑わせ続ける叶姉妹も、2020年5月に開催されたエアコミケに合わせて鬼滅の刃コスプレの写真を公開。

そのクオリティの高さで話題になった。

しかし叶姉妹だけにとどまらず、鬼滅の刃のコスプレに挑戦する芸能人は後を絶たない。

鬼滅の刃の人気ぶりは芸能界にも広がっていることが分かる。

 

 

同人誌即売会でのサークルスペース数の変遷

鬼滅の刃ジャンルはコミケの参加サークル割合を見ても、圧倒的に女性向けサークルの比率が多い。

特に女性向け同人イベントを数多く企画している赤ブーブー社(以降、赤ブー)からは鬼滅の刃オンリーイベントも定期的に開催されており、2020年には大型イベントスーパーコミックシティと同時開催の大規模オンリーまで予定されている。

 

赤ブーによって鬼滅の刃のオンリーが最初に開催されたのは2018年1月大阪、その時に参加したサークルは51スペースだった。

この時はまだ、正式なオンリーではなくプチオンリー扱いの開催で、鬼滅の刃の連載自体も徐々に人気を上げ始めていた頃。

 

そして2018年6月2回目の開催には正式なオンリーへ昇格果たし、112スペースまでサークル数も増加、その後も着々とスペース数を増やしていった。

そして、アニメの放送後初のオンリーイベントは2019年9月の東京開催。この時、まだ第4回目の開催で参加サークルは400スペースを記録。

 

スペース数の急激な増加、このことからもアニメの放送は同人方面でも鬼滅の刃の人気に火をつけたことが分かる。

その後もコミックスの累計販売部数と比例するようにスペース数の上昇率が飛躍的に跳ね上がったのだ。

 

2020年現在、コロナウィルスの影響で多くのイベントが中止になり、予定されていた鬼滅の刃オンリーイベントもいくつかが中止や延期に追いやられた。

しかし、すでに現在鬼滅の刃オンリーイベントのサークル参加申込数は1,000スペース超を早期で満了するところまで成長をみせていた。

 

また女性向け同人誌の通販においてサークルから人気が高い同人ショップとらのあな女子部の通販サイトでは、現在全年齢向け・成人向け合わせて4,000を超える同人誌が登録されている。

これは女性向けジャンルの中でも人気トップクラスの「刀剣乱舞」や、「ヒプノシスマイク」などに迫る頒布数だ。

 

その内訳を詳しく見てみると、鬼滅の刃は他のジャンルに比べて若干全年齢向けの同人誌の割合が高めなことに気が付いた。

これは鬼滅の刃ジャンルの中でもメインカップリングをオールキャラに設定しているサークルが多いことに関係しているのではないだろうか。

 

このことから他のジャンルで見かけがちな大人気カップリングがジャンル全体を率いて盛り上げているというよりも、オールキャラのほのぼの系同人誌が鬼滅の刃ジャンルの地盤を支えているのではないかと考えられる。

どちらが良いというわけではないが、鬼滅の刃は推しカップリングを熱狂的に応援しているというよりも、鬼滅の刃の作品全体を推したいと考えている作家さんが多いのかもしれない。

 

鬼滅の刃は今のところコミケのジャンル分けで言うとFC(ジャンプその他)に含まれる形をとっている。

だが、このままいくと新ジャンルとして独立するのも時間の問題だろう。

C98夏コミは中止となってしまったが、C99となる冬コミのジャンル分けにも注目していきたいと思う。

 

今後、連載の終了が鬼滅の刃の同人人気にどう影響してくるのかはわからない。

だが映画の公開後もアニメもしくは続編映画で活躍を続けると思われる鬼滅の刃の人気は、まだ簡単に衰えることはないだろう。

 

 

まとめ

社会現象を巻き起こした鬼滅の刃は、間違いなくモンスター作品だ。

そんな作品が人気絶頂の中に連載が終了してしまい、鬼滅ロスに陥った人も少なくない。

 

しかし鬼滅の刃は連載が終了しようとも映画やアニメ、そしてスピンオフ作品など様々なコンテンツを通して我々に未だ新たな世界を提供し続けてくれている。

まだ我々がロスになるのは早いのだ。

 

コロナの影響で現在多くの人がテレワークに利用するようになった「Zoom」

先日様々な分野のコンテンツが公開するZoomのバーチャル背景がトレンドとなった。

鬼滅の刃の制作を担当したufotableも、無償で鬼滅の刃のバーチャル背景を公開。

当然著作権のある素材なので、加工編集することは法律に違反する行為なのだが、バーチャル背景の公開直後から加工したものをSNSにアップするファンが続出。

 

こういった騒動はこれまでもしばしば散見され、鬼滅の刃ファンは民度が低いなどとネット上で揶揄されることがある。

これは幅広い世代から愛されたことで、まだ年齢層が低い情緒の育ち切っていないファンも多く生まれたことにより起きた弊害であると思われる。

 

しかし、折角たくさんの人々に愛された作品を、当のファンたちが貶めてしまうほど悲しいことはない。

未熟な子どもは、大人が導くしかないのだ。

正に最初こそ未熟なコンテンツだった鬼滅の刃が大きく育ち、羽を広げ未だに成長し続けているように。

それならば我々が未熟なファンを諫め、導いてあげるべきだろう。

そうして鬼滅の刃と共に成長していこうじゃないか。

 

さてこれからの鬼滅の刃はどのような世界を見せてくれるのだろうか、楽しみだ。

 




Writer

Shuuuuhi

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